2017年3月13日 その2
2017年3月13日 その2
2017年3月13日(月)
「サイバーセキュリティはみんなで参加」とセキュリティ人材の評価と私たちの社会の在り方
新潟大学大学院
法学部 教授 田中 幸弘
本来オリンピックの実施に向けて国を挙げてセキュリティをどう考えるかの問題意識とそれを共有する人材というのは、現場での状況の展開の経験に富み現場での判断に長けた既存の人材の中から発見されるべきではないかと思われる。
現場が分からないで理屈だけでリスク回避が十全に可能と思う方がどうかしている。現場をわかった上で統合作戦本部で実際に各システム間の統合を図る人材はなおのこと一朝一夕では育成できないのが基本なのではないか。
だからこそ長期的に各分野から種々の視点を統合した国を挙げての人材の育成は意義あるものではあるだろう。
しかし、一般論として、オリンピック関連とかに限らず、そもそも人材管理における安価な人材の手当て如何との短期的な視点のみでセキュリティ人材の存在を考えるというのは明らかに本末転倒なのではないかと思うのであるがいかがであろうか。
このような人材を調達する場合には当然競争も激しいだろう。しかも民間での人材の希少性をバックとした引き留めやら報酬の調整プロセスも当然出てくるのがむしろ当たり前であろう。
かかる労働市場における専門性の希少性に基づく報酬水準の高さを認識した上でかかるオリンピックに向けた人材の調達が中期的には企図されなければならないように思われる。さらには、若年層・中堅層・壮年層のバランスと、人事掌握能力のレベルの高い人間を探さなければならなりことにも留意する必要があるだろう。せっかく有能な若手を招聘してもそれを「殺す」管理者層の存在は無益どころか有害ですらある。
ただでさえ有能な若手を能力面でも厚遇できず、ましてや能力を生かして実務で寄与させるための環境の整備もできず、若手・中堅の成果や業績の評価能力にも欠ける人材を、よりにもよって経営層にあたる主体と現場の若手の両方に配慮しなければならない、中堅層に集めるようなことがあれば、国を挙げての一大事業の達成のための大きなボトルネックになる可能性がある。
そして、経営者層に該当する統合作戦本部はかかるボトルネックによる弊害をモニタリングする能力を有する人材である必要があるように思われる。
ただでさえ有能な若手は引く手あまたである分野もあるだろう。問題発見・解決能力に長け人材管理・人事管理能力もあり、現場も経営を理解したうえで双方を仲介できるマネジメント力がある中堅の人材は、今後ますます、人材評価システムが充実している外資系や新興企業では高額での引き抜きも実際に行われる可能性が懸念される中で、それらで構成される統合作戦本部・中堅層・若手のそれぞれの能力が発揮されやすく国及び国民をサイバーセキュリティ分野で守るという各分野の需要の統合を可能とするためには、どのような環境整備が必要かを常に機動的にまじめに考える必要があるのではないか。(つづく)