2024年サイバーセキュリティ月間の寄稿コラム

長崎県におけるサイバーセキュリティボランティア育成の取組み

株式会社ラック サイバー・グリッド・ジャパン
ICT利用環境啓発支援室
尾方 佑三子

1.この取組の経緯、概要を教えてください。

 株式会社ラックの尾方と申します。弊社では長崎県におけるサイバーセキュリティボランティアの育成に協力しています。この取組みは、長崎県警察の推進のもと、県下の高校生・高専生が主体となり、地元の小中学生にサイバーセキュリティや情報リテラシーに関する講話を実施するというものです。高専生に加え、参画している高校生は、普通科や商業、工業、情報など、様々な学科に在籍していますが、「情報」への興味を持っていたり、進路を考えていたりする生徒が多い印象です。また小中学生に講座を実施するという社会貢献に意欲的なところも印象深いです。今年度(2023年12月末時点)は、サイバーボランティア参加校10校で、34講座を実施し、受講した小中学生は2,798人という規模になりました。弊社は高校生・高専生に対する事前研修と教材の提供という形で、2017年の制度の立ち上げから携わっており、事前研修では、弊社社員による模擬講座のほか、講座の組み立てやテーマ選定を実践するワークショップを行います。また、必要に応じて、サイバーボランティアの皆さんが作成した講座資料のレビューも実施しています。

2.取組の特徴、ユニークな点を教えてください。

 県下の高校生・高専生がサイバーボランティアとして地元の小中学校へ講座に赴く点です。デジタルネイティブの視点で、スマートフォンなどの長時間使用による健康被害や高額課金、ネットいじめや誹謗中傷、不適切投稿など、小中学生が被害者にも加害者にもなりうる身近なテーマを取り上げ、彼らの言葉でその内容と対応の方法を伝えます。45分~50分という学校の授業時間の中で分かりやすく学んでもらうために、劇を行ってみたり、話し合いの時間を設けてみたり、動画を作成してみたりと様々な形式で伝え方を工夫しています。講師となる高校生・高専生たちは人に伝えることでより深く学ぶことができ、小中学生たちは、年齢の近い世代から教わることで、より実感を持って学ぶことができます。
 もうひとつの特徴は「循環型」であるということです。小中学生は地元の先輩達から学ぶことで、高校生になった時に今度は自身がサイバーボランティアとして地域に貢献しようという意欲を得ることができ、高校生・高専生はこのボランティアを経験して社会に出ることでサイバーセキュリティ人材としての活躍が期待できます。さらに将来的には、ボランティア経験者が保護者の立場になった際に、年少の子たちに教えた経験を生かして、より安全にインターネットや情報機器を取り扱うための家庭教育ができるようになることも期待されています。地域の中で次世代にバトンを渡していく仕組みといえるでしょう。

サイバーボランティア講座の様子

3.難しい点、苦労しているポイントを教えてください。

 特徴として挙げた「循環型」を実現するには、仕組みの維持がとても重要です。次世代に繋いでいくには長い時間を見据えなくてはなりません。進級や人事異動など、この取組みに関係する環境には毎年変化があります。同じことの繰り返しではなく、変化を受け入れながら継続することが、大変であり大切なことかなと思います。この取組みでは、「長崎県サイバーセキュリティに関する相互協力協定」が枠組みとして機能しており、行政や企業、学校、地域の組織が連携しながら能動的に支えることが必要なのだと実感します。

4.実際に取組に参加された方の声

佐世保工業高等専門学校 複合工学専攻2年 情報工学系 野口真生様
 この取組みに参加する前は、小中学生を前にインターネットに潜む問題を上手く伝えられるか不安に思っていました。実際にボランティアに取り組んでみると、発表することの難しさ、伝えたい内容を分かりやすくスライドにまとめる難しさなど沢山の問題にぶつかりました。しかし、ボランティア仲間と振り返りをすることで、回数を重ねるごとに良い講習会にしていけたのではないかと思っています。ぜひ、この活動を来年度からも盛り上げてもらいたいです。

長崎県警察本部 生活安全部 サイバー犯罪対策課 首藤綾華様
 この取組みも7年度目になります。右も左も分からない中、サイバーセキュリティボランティア活動でまず私が驚いたのは、活動に参加していただいている高校生・高専生の意欲の高さ、実際に行う講話の上手さでした。高校生・高専生が、子供達にわかりやすく伝えるためにはどうしたらいいか、どうやって楽しんで参加して貰うかなど、悩みながら工夫して実施してくれた講話が、子供達に良い記憶として残り、サイバーセキュリティの大切さを理解してもらうための大事な一歩になって欲しいと考えています。

5.最後に、コラムを読んだ方にメッセージをお願いします。

 長崎でのこの取組みは、サイバーセキュリティについて地域の中で身近な世代が学びあい、成長してバトンを繋いでいく仕組みとして効果的に機能しはじめています。他の地域でも、それぞれの地域の特色を織り交ぜながら実践できる仕組みではないでしょうか。これからも弊社はこの取組みに継続的に協力していきたいと考えています。